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グーグルの租税回避に終止符? 英国に220億円追加納税も「まだ足りない」

 

「グーグル税」効果?

グーグルは22日、英国の税務当局である歳入関税庁(HMRC)との間で2005~14年度について1億3千万ポンド(約220億円、延滞税を含む)を追加納税することで合意したというニュースが流れました。グーグルの英国での納税額(13年)はわずか約2千万ポンド(約33億9千万円)でした。

英国ではグーグルやスターバックスなど米国の超多国籍企業の、タックスヘイブン(租税回避地)や知的財産に対する優遇税制をフルに利用した過剰な租税回避行為が大きな社会問題になっていました。

納税者の怒りを追い風に、オズボーン財務相は昨年4月から、悪質な租税回避には懲罰的な意味を込め、法人税(20%)より高い税率25%を適用する「グーグル税」を導入しています。

経済協力開発機構(OECD)や20カ国・地域(G20)も悪質な租税回避を許さない国際的な枠組みをつくることで合意しました。納税額の最小化を突き詰めてきたグーグルも納税者の怒りと国際包囲網にようやく観念したかに見えます。

これまで納めていなかった法人税の追加分を認めて納めるのだから、英国のオズボーン財務相の言うようにこれは「英税務当局の勝利」なのかもしれません。しかし、何を英国での法人所得と認定し、何%の税率を適用したのか、まったくわかりません。

09年から超多国籍企業の悪質な租税回避を追及してきた公認会計士で「タックス・リサーチUK」代表のリチャード・マーフィーさんはブログでグーグルが納めなければならない法人税は年に2億ポンド(約339億円)だと指摘しています。

マーフィーさんによると、オンライン広告などによるグーグルの英国での売り上げは13年に38億ポンド(約6440億ポンド)、14年は45億ポンド(約7625億円)でした。グーグルは毎年、世界中で400億ポンド(約6兆7784億円)の売り上げがあり、普通はその1割が英国での売り上げだそうです。

グーグルの売上高利益率は25%程度です。英国での年間売り上げを40億ポンド(約6778億円)とすると、実質利益は10億ポンド(約1700億円)。それに法人税率の20%を掛けると、2億ポンド(約339億円)になるという計算です。

10年間なら20億ポンド(約3390億円)になるので、グーグルが合意した1億3千ポンド(約220億円)はお話にならないほど寛大なディールというわけです。どうして、これまでグーグルは英国で法人税を異様なまでに低く抑えることができたのでしょう。

ダブルアイリッシュ・アンド・ダッチサンドイッチ

それは「ダブルアイリッシュ・アンド・ダッチサンドイッチ」という手口を使ってきたからです。カフェでダブルの濃いアイリッシュ・コーヒーとオランダのサンドイッチを注文するイメージです。初めての方もいらっしゃると思うので、おさらいしておきましょう。

まず、法人税はそれぞれの国や地域によって大きく異なります。日本の場合、法人実効税率は引き下げられましたが、現在32.11%。17年度から29.97%、18年度からは29.74%に引き下げられます。

欧州ではグローバル化と欧州連合(EU)拡大によって企業活動も一気に多国籍化しました。企業は法人税率の低い国にどんどん移動していくようになりました。英国は30%(08年当時)から段階的に引き下げ、現在20%ですが、アイルランドは12.5%です。タックスヘイブンのバミューダ諸島は0%です。

できるだけ法人税の低い国に利益を移して、法人税額を低く抑えたいというのは人情です。さらに国際企業を誘致するため、パテント(特許権)など知的財産(IP)による所得への税率を低くする国が出てきました。

 

「パテント・ボックス」制度とかIP優遇税制とか呼ばれますが、オランダは07年に10%の優遇税率を導入し、10年に5%に引き下げました。欧州の国々は英国をはじめ競うように、この制度を導入しています。こうした制度をフルに利用したのが「ダブルアイリッシュ・アンド・ダッチサンドイッチ」なのです。

法人税が12.5%のアイルランドに2つの関連会社を設立し(ダブルアイリッシュ)、米国の本社から海外事業のライセンスを与えます。

知的財産から生じた所得への優遇税制を敷くオランダの関連会社をはさむ(ダッチサンドイッチ、ダッチとはオランダのという意味)ことでライセンス料にかかる源泉税を免れ、利益の大半をバミューダ諸島(英国の海外領土)にある管理会社に移す究極の「節税策」です。

フェア・タックス・タウン

風光明媚な英ウェールズ地方のブレコンビーコンズ国立公園にクリックホーウェルという人口2800人の小さな街があります。超多国籍企業とは無縁の田舎町で、全国チェーンは「ブーツ(Boots)」という薬品チェーンだけです。

 

コープ(生協)がパブを買収して出店すると聞いたときは、街の住民が500~3万ポンド(8万4700~508万円)を出してそのパブを計50万ポンド(8473万円)で買い上げて出店を阻止しました。この街のカフェ「ナンバー18」の経営者は、大型コーヒーチェーン「カフェ・ネロ」が07年から英国で法人税を納めていないと知って、びっくり仰天します。

小さな田舎町のカフェ「ナンバー18」でも5年間で13万7千ポンド(約2321万円)も税金を納めているのに、どうしてカフェ・ネロの法人税はゼロなのか。フェイスブックが14年度に納めた法人税はわずか4327ポンド(約73万3200円)です。

昨年の初夏、BBCのプレゼンターが街を訪れ、ドキュメンタリーの製作と住民の税金プロジェクト「フェア・タックス・タウン」が同時進行で始まります。

 

住民はタックスヘイブンの一つ、英王室属領のマン島でペーパーカンパニーのホールディングカンパニーを立ち上げ、オランダのアムステルダムで「パテント・ボックス」を使う合法的な方法を公認会計士や弁護士、ファイナンシャルプランナーから教えられ、目を丸くします。

超多国籍企業と税務当局の慣れ合いを目の当たりにして歳入関税庁(HMRC)を辞めてジャーナリストになった人や、租税回避を追いかける調査報道のジャーナリストが住民をサポートします。住民グループは歳入関税庁の担当者と面会し、自分たちもグーグルやカフェ・ネロと同じ租税回避スキームを使いたいが、どうかと詰め寄ります。

BBCのドキュメンタリー番組「タックスマン(税務署)と対決した街」の中で、眼鏡店を経営する女性がぽつりと漏らします。「もし私たちも超多国籍企業と同じような租税回避スキームを利用して税金を納めないようにしたら、私たちの街の学校や病院、道路はどうなるの。私は超多国籍企業のようにはできない」

この女性は運動から距離を置くようになります。「フェア・タックス・タウン」の運動は、超多国籍企業のように租税を回避するのではなく、超多国籍企業に自分たちと同じように税金を納めるよう働きかける方針を定めます。趣旨に賛同した英国の田舎町は次々と「フェア・タックス・タウン」運動に参加します。

グーグルと英歳入関税庁のディールについて、フェア・タックス・タウン事務局は「もし私たちが幸運だったとしても、同じような合意ができるのは1%にも満たないレアケースだ」と辛辣なコメントをホームページに掲載しました。

「二重非課税」を許すな

企業活動がグローバル化すると、同じ利益に対してそれぞれの国で課税される「二重課税」の問題と、租税回避のスキームを使ってどの国でも税金を納めずに済ませる「二重非課税」の問題が生じます。

日本では09年に東京国税局が千葉県にあるアマゾンの配送センターを「支店」とみなして法人税140億円の追徴課税処分を決めたことがあります。しかしアマゾンは反論し、支払いに応じませんでした。

日本と米国の相互協議の結果、「配送センターは倉庫で、『恒久的施設』ではない」というアマゾンの主張が認められ、追徴課税処分は取り消されました。

国税庁OBで、国際課税に詳しい早稲田大学の青山慶二教授は「先のG20で、アマゾンのような重要な活動を行う現地大型倉庫は『恒久的施設』として課税すべきであるという合意ができました。今後、租税条約の改定が進めば課税できるようになります」と話しています。

日本の多国籍企業は財務諸表の管理を現地の子会社に任せる一方で、本社で特許権などの無形資産を集中管理しています。そのため「ダブルアイリッシュ・アンド・ダッチサンドイッチ」のようなスキームを使う例はほとんどありません。

欧州では生き馬の目を抜くような「租税競争」が繰り広げられているのに対し、欧州と遠く離れた日本はこれまで租税競争とは縁遠かったと言えます。

日本国内に支店や子会社を置かない外国企業がインターネットを通じて音楽や電子書籍、広告を販売する電子商取引についても、15年度の税制改正で、消費税を課税できるようになりました。

公正な課税と富の再分配は民主主義の基本です。

グーグルやフェイスブックなど超多国籍企業の法人税納税額は日本ではどうなっているのでしょう。日本の財務省と国税庁は一度、日本国内で活動する超多国籍企業の売上高、利益、納税額などの情報を開示してほしいものだと、皆さん、思われませんか。