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“膨張”するコンパクトシティに歯止めを

 人口減少と高齢化が進むなか、自治体の中心部への居住と各種機能を集約し、人口集積が高密度なまちを形成する「コンパクトシティ」を目指す取り組みが、特に地方都市で行われてきた。基本コンセプトは、市街地の拡大を抑制し、都市機能(行政機関や商業施設など)を集約するとともに、人口密度のなるべく高い状態を維持することである。これにより、たとえ人口減少が進んでも、都市のにぎわいや都市機能へのアクセス性を低下させないようにすることを狙っている。しかし、この理念自体は正しいが、郊外に住む人を中心市街地に移住させることは容易ではない。

 除雪費用などの財政負担軽減の観点から、早い段階で積極的にコンパクトシティを推進してきたのが、青森市である。同市は、2001年にコンパクトシティのシンボル的施設として、青森駅前に官民複合施設フェスティバルシティ・アウガ(略称:アウガ)を設置したが、開業以来テナントの売り上げ低迷により赤字経営が続き、厳しい経営状況に見舞われた。

 運営主体である第三セクターの青森駅前再開発ビルは、これまで市の支援や金融機関の債権放棄などにより延命を図ってきたものの、事業環境は好転せず、本年7月5日、青森地裁へ特別清算を申請した。まさに箱物主導のコンパクトシティ政策の限界が明らかになった例といえよう。

 また同市では郊外に暮らす高齢者に街なかへの移住を促したが、一部で中心市街地に近いマンションが売れた程度で、劇的な効果は見られなかった。古くから郊外に暮らす高齢者にとって、愛着ある郷土を捨てて、市街地に居を移すことは簡単な決断ではない。まして、地価の安いエリアから高いエリアへの移転は、費用負担の問題もある。不動産を担保に生活費を確保するリバースモーゲージも、地価の安さがネックとなる。

15万戸分の農地が転用 進む地方都市の“拡大”

 さらに、コンパクトシティなどの都市形成が進まないどころか、地方都市では居住地域の拡散が起きている。

 国勢調査のメッシュ統計をもとに、直近5年間の山梨県における人口の変化を地図上に表してみよう。(図参照)県庁所在地であり人口密度も最も高い甲府の中心市街地では、人口減少が顕著で、その周辺を取り巻くように人口増加地域が分布している。スプロール(都市の無秩序な拡大)の典型である。2000年代前半に比べればそのペースは緩やかになったとはいえ、依然として市街地の膨張は止まっていない。同じ甲府市内でも、中心市街地を構成する16町では5年間で人口が7%程度減少したが、郊外の17町では14%増えている。

 もともと中心市街地で営まれていた商店も、顧客の減少により店をたたむか、人口や商業の集積が進む郊外のロードサイドに進出したものがある。経済センサスによれば、14年までの5年間で、甲府市の郊外では卸・小売業の事業者数がほとんど変化していないにもかかわらず、中心市街地では4%程度減少した。山梨をはじめ全国的に商店の数が減少するなか、その立地が中心市街地から郊外へとシフトしていることが分かる。こうした人口や商店の郊外への流れは、山梨に限ったことではなく、全国的に見られる傾向である。

 地方行政レベルでも、無秩序な開発の抑制が求められ、都市計画にのっとったまちづくりが進められてきたが、緩やかに減少してきた農地転用面積は、近年再び増加傾向にある。この背景には農業の衰退や担い手の高齢化、耕作放棄地の増加などとともに、地価が跳ね上がることを意図した農地所有者の宅地・商業用地への転用期待がある。現在1年間に転用される農地面積は、農地全体からみれば1%に満たないが、14年の住宅地向け農地転用面積はおよそ4000ヘクタールに及び、単純計算で平均的な戸建て住宅15万戸分に相当するほど広大な土地が、主に人口減少が進む地方都市周辺で住宅地として供給されたことになる。

 さらにこの夏、農林水産省は農村での雇用創出の観点から、従来工業など5業種の企業に限っていた農地転用について、対象業種の限定を廃止、大幅に規制緩和した。例えば農業の六次産業化をするための施設を設置しやすくし、今後の農村振興を図るという。

 しかし、過去の経緯をみれば、そうした大義のある転用であっても、蟻の一穴のごとくその周辺の開発を招来し、さらに対象地域の外側の転用期待を高めるため、コンパクトシティとは逆に、さらなるスプロール化を推し進めてしまうリスクをはらんでいる。

 純粋な意味でのコンパクトシティ政策を進めるには、郊外から中心市街地へ移住を促すことが必要となるが、これには相当時間がかかる。国土交通省と総務省による、5年に1度の過疎集落の悉皆(しっかい)調査(条件不利地域における集落の現況把握調査)によれば、15年までの5年間で全国6万4805の過疎集落のうち、無住化したものは全体の0・3%に当たる174に過ぎない。しかも、消滅リスクが高いと考えられた集落もその大半が存続していることが分かっている。さらにこの間、新たな集落が562も誕生している。

 コンパクトシティの形成が容易なことではないという認識のもと、まずはこれ以上市街地を広げないという地域の共通理解と取り組みが必要となる。計画的な農地転用の抑制や土地利用の適正化が不可欠である。

 さらに、住民の都市機能へのアクセス性を低下させないようなネットワークの構築を図ることが重要である。青森市がどちらかといえば中心市街地を核とするコンパクトを目指した一方で、同時期から積極的に取り組んできた富山市は、既存の路面電車や鉄道を生かし、それぞれの駅を核とする「ネットワーク型」であった。それにより都市機能への市民のアクセス性が担保された。

 しかしながら、コンパクトシティに熱心な富山市であっても、国勢調査のメッシュデータでみると市街地の南西部に新たな住宅地が広がっているなど、必ずしも居住エリアがコンパクトになっているわけではない。鉄道と路線バスを活用した住民の都市機能へのアクセス性を高める取り組みとともに、都市拡大の抑制も必要となる。

 

行政は責任を持って 持続可能なまちづくりを

 政府はネットワークの概念を導入した「コンパクト+ネットワーク」の両にらみで、市街地や集落の再活性化を図っている。郊外において地域の実情に即した複数の集落をカバーする公共交通網を整備したうえで、さらにその中で中核となる集落と都市機能の集積したエリアを公共交通で結ぶ取り組みである。都市機能へのアクセス性の良さを改善する現実的な戦略に重きを置いた戦略だ。

 この戦略の中心となる制度として、政府は14年に、従前の都市計画に加え、「立地適正化計画」という制度を新たに導入した。人口密度の維持を目的に、新規住宅取得者を一定のエリアに誘導する居住誘導区域と、医療・福祉・商業等の都市機能を集積させる都市機能誘導区域を設定することを主な特徴としている。

 立地適正化計画は、都市計画とは逆に人口減少を前提とし、時間をかけて居住エリアと都市機能を集約することで都市をスリム化しようという発想である。移転誘導の難しさやコスト面から、性急なコンパクト化を求めず、無理のない範囲で住民や都市機能を誘導しようとするのは妥当な判断といえる。新たな郊外開発に大義名分を与える危険性があるため、開発区域を従前より制限できれば、市街地の拡大に歯止めをかけることができる。

 とはいえ、現在357都市が取り組み、すでに112都市が策定した計画を公表(今年7月31日時点)しているが、補助金や税制支援を期待して手を挙げた自治体もあるようだ。国は「自治体によって計画内容に温度差がある。今後は計画を精査して対応する必要がある」(国土交通省関係者)としており、計画を「絵に描いた餅」で終わらせないことが重要だ。

 今後の地域運営を考えれば、民間の機能を積極的に活用する視点も重要だ。過疎地域の公共交通といえば、利用客は少なく、空気を運んでいるような路線バスが定番であるが、地域によっては、ショッピングセンターや民間病院が無償のバスを運行する例が出てきた。買い物を必須としておらず、通常の公共交通として利用してよい仕組みとなっている点が注目に値する。

 また、そういった民間施設がデイサービスや保育所、図書館など、本来行政が設置すべき社会インフラを併設する例も徐々に増えてきている。企業がこうした活動に積極的であるのは、積極的に公的役割を果たすことで地域の拠点施設となり、相乗効果によって集客増を期待できるためと考えられる。

 農地の転用を抑制し、新規住宅取得者を一定のエリアに誘導する政策は、個人が所有する不動産の価値にも大きく影響する政策であり、その推進にはさまざまな障害が予想される。しかし、本格的な人口減少社会に移行する今こそ、自治体は地域住民や民間企業などと連携を図り、覚悟を持って向こう50年の持続可能なまちづくりを断行しなければならない。